もっと、もっと……
貴女を知りたい。


長くて眠れない夜が 君への想い




普段あまり使わない携帯電話も、貴女の事となると一気に重要性を増す。
手放す事など考えられなくて…常に肌身離さず持っていなければ不安になる。

それでも貴女は俺と同じ。
メールのペースは、あまり速くない。
返事はいつも待ち遠しくて仕方ないけど、貴女も俺と同じように、一字一句をいろいろと思案しながら送ってくれているのかと思うと、
このスローペースが嬉しく感じられる。

たとえ逢いたいと思っても素直にそれを言えない俺に、貴女はいつも見計らったように『逢いたい』と連絡をくれる。
まるで伝心しているようで嬉しいような。
貴女に甘えてばかりいるようで、心苦しいような…。

それでも、そんな俺の気持ちとは関係無しに『 』と携帯のディスプレイに貴方の名前が表示されれば、
貴女を愛おしいと思う、その感情だけが先行する。


『今電話しても平気?』


受信したばかりのメールの内容はあまりにもシンプルなのに。
同じことを同じタイミングで思っていてくれたと言う事実が、一層貴女を好きにさせる。

返事を返す代わりに貴女の電話番号を表示させて。
通話ボタンを押せば、耳元に聞こえるのは無機質なコール音。
一回、二回、三回目が鳴り終わるか終わらないかと言うところで、貴女が俺を呼ぶ声が聞こえて来たから。
その声に、思わず口元が弛む…。


『びっくりした。日吉くんからかけてくれると思わなかった』
「それ、俺が滅多に電話しないような言い方ですね。大体、さっきのメールに返事するくらいなら、自分からかけた方が早い」
『もう少し優しい言い方してくれてもイイのに』


拗ねたように言いながらも、聞こえる声のトーンは柔らかい。
今、貴女がどんな表情をしているのか‥手に取るように判る気がする。


‥さん、今なにしてたんですか?」
『んー‥音楽聴きながら一息ついたところ。さっきまで夕飯の後片付けしてたから。日吉くんは?』
「俺は‥特に何も。部屋でゆっくりしてた」
『そっか。テニス、大変そうだもんね。あ…それならあんまり長く話してない方がイイかな?』


時折、貴女の意地悪な質問に振り回されるけど。
貴女が本気で俺を気遣ってくれていると判っているから、余計に性質が悪い。

『そんな事、気にしなくて良い』と。
否定すればいつも、貴女から返される声はあまりにも嬉しそうだから…。
俺から貴女に意地の悪い答えを返すなんて、出来なくなる。


「ヤワな鍛え方してないんだ、そう言うのは気にしなくて良いですよ」
『じゃあもう少しだけ、日吉くんの声聞いててイイ?』
「っ‥さんの好きにして下さいよ。まったく…そんな嬉しそうな声出さないでくれませんか?俺が‥恥ずかしくなる」


悪びれた様子も感じさせないまま、ごめんね、なんて言われても……
そんなんじゃ、反省の色なんてまるで見られないと言うのに。
貴女があんまり嬉しそうにするから、貴女を愛しいと感じてしまう。

貴女は知らなさ過ぎるんだ。
俺がどれだけ、さんに振り回されているのかを。
俺がどんなに、さんを想っているのかを…。




・・・

時間を忘れて、貴方とつい話し込んで…。
いつも電話を切る瞬間は、お互いに気を遣ってしまう。
その瞬間が嫌だから、電話は嫌いなのに。
コレがなければ、なかなか逢えない貴女の声を聞く手段ですら途切れてしまう。

そんなもどかしさに悩んでいるのは、貴女も一緒ですか?

なんて、聞けそうもない疑問だけがいつも、咽喉元まで出かかって消える。
貴女と同じタイミングで、同じ気持ちでいられる嬉しさ以上に、
本当はもっと、貴女の事を知りたくて仕方がない。
貴女の想いを感じてみたくて、じれったい…。

だから…、


『じゃあ‥おやすみ、日吉くん』
「あぁ。おやすみ、さん」



貴女の声が途切れた夜は、俺には長くて仕方がない。
やけに長くて、眠れない…。

そんな眠れない夜は、貴女の事ばかり考えてしまって…心が焦れる。


「おやすみ、…」




握り締めた携帯電話に落とすくちづけは、貴女への想い。
もっともっと…貴女の想いを知りたい。

そんな長くて、眠れない夜…。





(眠れない夜)

(貴女は何を想っているんだろう)



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