貴女があまりにも場違いだと感じたのはきっと、
貴女を認めたくない気持ちの表れだったのだろう。

君となら運命だって



突然開かれた臨時集会。
全校生徒が集められ、臨時採用された事務職員の紹介がされた。
紹介が無くとも彼女が本土の人間だと言うのが判るのは、あまりにも場違いなほど透き通った白い肌が原因だろう。


「本日よりお世話になります、と申します。生徒さんとは直接関わらない事の方が多いかと思いますが、よろしくお願いします」


白いシャツが、一層彼女の肌を際立たせる。
ほぼ全員が半袖で肌を晒して居ると言うのに…。
長袖のブラウスを纏う彼女はそれでも、暑さなど微塵も感じさせはしない。


「よりによってヤマトンチューの奴かよ、なあ永四郎」
「静かにしさいよ、平古場君」
「けど、ちりーんな人やしー。わんのタイプやんどー」
「判ったから……そろそろ黙りなさいよ」


彼の言葉に小さく溜息を吐きながらも、視線が幾度と無く彼女を追い掛けている。
場違いだと、不釣合いな存在だと。
何度も何度も頭の中で繰り返したのはきっと、彼女を認めたくない気持ちの表れだったのだろう。
彼女に興味を持とうとする自分自身が、何故か嫌だった。


そう。それなのに……。

部活が始まって直ぐの事だった。
ジャージに着替え、コートへ集合し、一年部員が練習の準備に取り掛かり始めた時。
すみません、と。
綺麗な声が背後から届くのが聞こえた。

振り返れば、コートの入り口付近に居たのは臨時集会で見かけた彼女の姿。
傍に居るのは、金髪の男。


「あ、集会ん時の事務の人やしー。ぬーばぁ?」
「あの…早乙女先生はテニス部の顧問の先生ですよね?」
「ぬーがやー、あにひゃーに用かよ。まだちゅーてねーばぁよ」
「あの‥すみません、琉球方言は全然‥判らなくて……」


困ったように、申し訳無さそうに俯いた彼女を見て、身体がふらりと彼女の方へと向かってしまった。
どうかしましたか、と声を掛ければ、少し不安そうな表情の彼女と目が合った。


「お、永四郎。事務の人が監督探してるってよ」
「名札してるんだから、事務の人じゃなくて名前で呼びなさいよ」
「本当だ、さんって書いてあるさー。わーは平古場凛」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「自己紹介は後にしなさいよ、平古場君。それとさん、監督ならまだ来てませんよ。代わりに伝言くらいしておきますが?」
「すみません、それじゃあ……」


手渡されたのはA4サイズの封筒。
綺麗な字で、監督の名が書いてあった。
職員室も探したんですけど見当たらなくて、と。済まなそうに話す彼女に溜息が漏れる。
近くで見れば見るほど、透けてしまいそうなくらい真っ白な肌。
それがまるで雪のようで、此処にはあまりにも場違い過ぎて……。
日差しの強い中、長袖の彼女のブラウスがやけに目障りだった。

けれどそれ以上に、こんな小さなことで必死に彼女を牽制しようとする自分自身が、何よりも理解出来無い。
触れたら壊れてしまいそうに細くて、穢れてしまいそうに白くて。
そんな事を考えて居る自分の思考が理解不能だ……。


「これだけですか?では、監督が来たら渡しておきます」
「お願いします。どうもありがとう御座いました」


ぺこりと頭を下げた後で、彼女が見せた表情は酷く悲しげなものだった。
その表情に驚いたのは、どうやら俺だけでは無かったようだ。


「ぬーがや?泣きそうな顔してるさー」
「ゴメンなさい…。本土の奴は、って…良く思われてないみたいで。お二人が親切で何だか安心しちゃって……」
「わーはヤマトンチューはぶしちやさー。けど何か‥さんは別に平気やし」


こんな話しちゃってゴメンなさい、と。
笑顔を作った彼女の表情が、やけに印象的だった。
庇護欲を掻き立てられるような、何処か果敢無げな人。

失礼します、と告げて彼女が立ち去った後で。
隣りの平古場君が呟いた。


「何か……雪みたいな人やったさー、あのさんって人。肌も白いし、脆そうだし」
「確かにそうですね」
「だろ?けど最初と印象が変わったなぁ」
「……お喋りは終わりにして、そろそろ練習しますよ」


話もそこそこで切り上げさせてコートへと戻りながら、
彼女をあんなにも否定していた頭とは裏腹に、気持ちは如何しようも無く彼女に魅かれて居る事に、改めて気付かされた。
ほんの僅かな言葉のやり取りだったけれど。
彼女のことなど、何も知りはしないのだけれど……。

貴女に惹かれてしまうことすら、運命なんじゃないかって。
如何してそんなことを考えてしまうのだろう。





(君となら運命だって)

(認めてしまうのは何故だろう)



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